大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山形地方裁判所 昭和29年(行)13号 判決

原告 相田貞雄

被告 糠野目村選挙管理委員会

被告補助参加人 遠藤清吉 外四名

一、主  文

原告の訴を却下する。

補助参加人等の共同訴訟参加申立を却下する。

訴訟費用中原告と被告との間に生じた部分は原告の、原告と各補助参加人との間における共同訴訟参加について生じた部分は補助参加人等の各負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、山形県東置賜郡糠野目村議会解散請求者署名簿に関して、昭和二十九年八月十七日被告がなした署名総数千三百四十六中有効署名数は千百四十一である旨の決定は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、請求の原因として、原告は山形県東置賜郡糠野目村議会議長であるが、同議会は公聴会、部落会長会、座談会等を開いて十分検討したうえ、昭和二十九年六月八日同村を北部ブロツクに合併することを決議した。ところが市川輝雄外四名は右議決を不服として右議会解散請求代表者となり、同年七月七日千三百四十六名の解散請求者の署名を得たと称し、解散請求者署名簿(以下単に本件署名簿と云う)を被告に提出した。被告は同月八日より同月二十七日まで二十日間本件署名簿の署名の審査を行つた結果有効署名数八百三十四、無効署名数五百十二と認定し、同月二十八日より右署名簿を関係人の縦覧に供した。原告及び同村議会議員は、右縦覧期間中被告が有効と決定した署名のうち自署であつても任意性がないもの、代筆のもの、署名者が署名後取消をしたもの、署名の意味を知らずに署名したもの等があることを理由として被告に異議の申立をした。ところが、同月二十八日市川輝雄外多数のものが、被告委員会委員長をとりかこんで暴言をはきいわゆる「つるしあげ」をなし、更に自宅に押しかけ「くたばれ」「棺桶を用意した」等あらゆる暴言をあびせて同人を圧迫した。かかる状態がその後二、三日続いたので同委員長はこれにおびえて、物事を正常に判断する能力を失うに至つた。同委員長の右精神状態は異議審査期間中継続した。委員長一人であつても、被告委員会の構成員が右の状態にあつたのであるから、被告委員会は当時その機能を喪失していたものと云わなければならない。その様な被告委員会が昭和二十九年八月十七日請求の趣旨記載の決定をなしたのであるから、被告委員会の右決定は被告がその機能を喪失した状態においてなしたものとして当然無効である。よつてその無効確認を求めるため本訴に及ぶ次第であると陳述し、各補助参加人の共同参加申立には異議があると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、被告が昭和二十九年七月七日本件名簿を受付け、同年八月十七日右名簿の有効署名数を修正するに至るまでの事務的経過が一部次の如き数字の差異を除いて原告主張のとおりであることは認める。右数字の差異の存するのは、本件署名簿の署名総数千三百四十七(原告主張千三百四十六)、同年七月二十七日被告の行つた署名の効力に関する決定中有効署名数八百三十五(原告主張八百三十四)、同年八月十七日被告がなした修正による有効署名数千百四十四(原告主張千百四十一)の点である。その余の事実は争う。なお、同年七月二十七日になした本件署名簿の署名の効力に関する決定に当つては鑑定又は署名者の尋問の方法はこれを用いず、委員会の推定でなしたものである。又その後解散請求者からの異議の審査に当つては異議申立人に自署させてこれと署名簿の署名とを対照したけれども、申立人に自署させた際多勢の者が押しかけて喧噪を極めたため、果して申立人本人が署名したのかどうか確認しえなかつたが、かかる署名をも対照用に使用した。村議会議員から申立てられた異議の審査に当つて二十人位、解散請求者からの異議の審査に当つて五人位の各関係人を尋問したが他には尋問していない。被告委員会は一貫して厳正な中立的態度をとつてきたのであるが、一部村民の喧噪によつて被告委員会の機能を十分に発揮できなかつた。補助参加人等の共同訴訟参加申立には異議があると述べた。(立証省略)

補助参加人等訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、共同訴訟参加の理由として、被告は初め原告の主張を全面的に争つたが、その後原告の主張に合致するが如き陳述をなした。かくては被告敗訴の判決あるやもしれず、その結果本件署名簿の有効署名数に変動をきたし、参加人等の取得した議会解散請求権喪失を招来し、参加人等の権利を害すること極めて明白であると云わなければならない。民事訴訟法第七十五条の参加をなすには必ずしも独立して訴え又は訴えられうる当事者適格を有することを要しないのであり、苟くも本件の如く判決の効力が参加人の得た右の権利の消滅をきたす場合にも、同条の参加をなしうるものと解すべきであると述べ、答弁として、原告主張事実のうち、被告が本件署名簿及びその署名の効力についてなした事務的な経過が原告主張のとおりであることは認めるがその余の事実は争うと述べた。

三、理  由

先ず本訴の適否について考えてみるに、原告の請求は被告が昭和二十九年七月二十七日本件署名簿の署名の効力に関してなした決定の有効署名数について同年八月十七日被告がなした修正は無効であることの確認を求めると云うのであるが、右請求は右七月二十七日の署名の効力に関する決定に対する異議について被告がなした決定を争うものであり、結局は本件署名簿の署名の効力を争うことに帰着する。然るところ地方自治法第二百五十五条の二は、普通地方公共団体における直接請求の署名に関する効力は同法に定める争訟の提起期間に関する規定によつてのみこれを争うことができると規定している。此の規定は行政事件訴訟特例法の原則(行政事件訴訟特例法の原則によれば、行政処分の取消又は変更を求める訴は出訴期間の制限を受けるけれども、行政処分の無効確認を求める訴はその制限に服しないものと解されている。)に対する特例であつて、直接請求の署名の効力に関する争訟は取消訴訟のみならず無効確認訴訟も亦同法所定の出訴期間の制限を受けるものであることを明らかにした趣旨であると解さなければならない。地方自治法第七十六条によつて準用される同法第七十四条の二によれば、議会解散請求者署名簿の署名の効力について決定がなされ、これについて異議が申立てられ、異議申立について選挙管理委員会の決定がなされた場合、決定に対して不服がある者はその決定があつた日から十四日以内に出訴しうると云うのである。この規定と同法第二百五十五条の二を併せ考えると選挙管理委員会が異議に関する決定をした日から十四日を徒過するときは最早如何なる形の訴訟によつても議会解散請求者署名簿の署名の効力を争うことはできないものと云わなければならない。然るに本件において被告委員会が異議に関する決定をした最後の日が昭和二十九年八月十七日であることは当事者間に争いなく、原告が本件訴を提起したのが、同年九月三日であることは、本件記録中の訴状に押してある当裁判所の受付印の日附によつて明瞭である。然らば原告の本件訴はその余の点の判断をまつまでもなく不適法として却下を免れない。

次に各補助参加人の共同訴訟参加申立について考えると、本件訴は被告委員会の決定の無効を主張する訴であるが、行政庁の処分の取消を求める訴に準じるものと解されるから、本件の訴について被告となる適格を有する者は、行政庁又はその行為の効果が帰属する国又は公共団体に限られると解すべきである。然るに民事訴訟法第七十五条に基く第三者の訴訟参加は、その第三者が当該訴訟の当事者適格を有する場合でなければこれを許さない趣旨であると考えられるところ本件参加人等が本訴の被告適格を有しないことは明らかであるから、参加人等の参加申立は失当として却下されるべきものである。よつて民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本晃平 藤本久 岡田安雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!